ケースワーカーの体験談(失業保険と生活保護)

失業保険と生活保護

あるケースワーカーさんの体験談です。

母親と2人暮らし

私が担当していた女性は、20代半ばの色白で細くなんとなく元気のない女性で、バセドウ病の母親と2人暮らしでした。生活保護を受けていたその母子世帯は、日中訪問するといつも母親が独りでいるだけで、会社を辞めた娘さんは不在でした。

仕事探しにでも行っているのかなと思っていましたが、何処に行っているのか聞いても母親は答えようとしません。

もし、失業保険を受給しているのであれば、今支給している生活保護費からその分を差し引かなければなりません。

そうしなければ、その母子世帯は生活保護費の「過支給」を受けていることになります。そうなると、返還義務が生じ、いくら過支給されていたのかを計算しなければならず、ケースワーカーとしてもただでさえ忙しい中、さらに細かい作業が増えてしまうので、その場でなんとかしたかったのです。

「娘さんは失業保険はもらっていますか?」と母親に聞いても「わからない」と答えます。

そもそも受給するための手続きをしていますかと聞いても、やはり「わからない」とのこと。

いつ訪問しても本人は不在

失業保険は、これからも働く気持ちと能力があるにもかかわらず、仕事に就けていない人に再就職までのサポート資金として支給されるものですから、娘さんに働く気があるのかどうかを確認しなければならないのですが、いつ訪問しても本人は不在でした。

まったく本人と連絡が取れないため、彼女の勤務先に電話して「雇用保険に加入していたのか」、「離職票は彼女に渡しているのか」といったことを確認したところ、保険にも入っていて離職票も渡しているとのこと。それならば、何故ハローワークに行って手続きしないのかわかりませんでした。

母親から娘さんの携帯電話の番号を聞き、彼女の自宅からさっそくかけてみると、つながりました。「失業保険は受給されていますか?」と聞くと「受給していません」とのこと。もう離職して2ヵ月が経過しています。受給可能期間は、離職日の翌日から1年間で、手続きが遅れるほどもらえる金額が減ってしまいます。

しばらく働くつもりはない

「ハローワークには行っていますか」と尋ねると、一度行ったが「しばらく働くつもりはない」と話したら、それでは受給できないと言われたらしいのです。

受給している間は、週2回以上ハローワークに来て求職活動をして証明もをもらわなければなりません。

生活保護も健常な体であれば、就職活動をする義務があり、ハローワークに通ってちゃんと働こうと頑張っていますという意志を示さなければ、打ち切りになってしまいます。

当然、その際も通って相談した証明をもらって生活保護福祉センターに提出しなければならない決まりになっています。

こころの病気

失業給付と生活保護は基本的には同じ考え方で、あくまで自立するまでの「つなぎ」として支給するものであり、ちゃんと再就職の活動をしてくださいねという意図が含まれた公的給付なのです。

しかし、2つがバッティングすることは認められず、失業給付を受けているのであれば、その金額を毎月教えてもらい、毎月の生活保護費から差し引いて支給することになるのです。

自分はこころの病気であり、心療内科に通院する予定だと彼女は言いました。

そうなると、仕事を探せと無理に尻を叩くわけにもいかず、「疾病により再就職活動が不可能」ということで、今までどおり生活保護費を支給するということになります。

この母子のような世帯は、数多く存在しています。

言い訳

勤務中の怪我が原因で、工務店を辞めて失業給付を受給する手続きをせず、生活費すべてを使い果たしポケットに数十円というレベルにまでなって福祉センターに駆け込んでくる元肉体労働者、怪我はもう治っているのに、次の仕事を探す気はなく、今はとにかくお金がないので生活保護を受給したいと訴えるのです。

たしかに、失業給付に比べると審査のハードルは低いかもしれません。とにかく、今日明日食べるお金が無ければ、支給決定されるのですから。ただし、その後が問題です。健康なのだから、ハローワークに通ってもらわないと、そして週2回以上通った証明を提出してもらわないと、生活保護を打ち切りにせざるを得なくなります。

そんなときに彼らがとる手が、再就職の相談をしたという証明だけもらって福祉センターへ提出し、「なかなか自分に合った仕事が見つからなくて困っているんですよ」と言い訳するパターンです。

今頑張っているから、打ち切りはちょっと待ってくださいという戦法です。ハナから働く気はないのですが、それを決して表には出しません。そうこうしているうちに、失業給付を受給できる期間は過ぎてしまい、生活保護に頼る生活が始まってしまうという流れになります。

卒業

「ハローワークにはちゃんと通っていますが、なかなか仕事が見つかりません」これが彼らの常套句です。

失業保険だけでは、最低生活水準には達しないでしょうから、それを生活保護で埋めるのは構いません。しかし、失業保険をもらいながらきちんと再就職の活動をして、職業訓練セミナーにも参加して再就職に成功し生活保護から卒業して行ったという世帯を私は、あまり見たことがありません。

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